reportレポート

日本初のエネルギー自給自足都市を
泉北ニュータウンにつくる大和ハウス工業

泉北ニュータウン開発当初からのおつきあい

大和ハウス工業は、1955年大阪市にて創業。現在も大阪に本社を構えています。建設会社として創業商品「パイプハウス」を世に送り出し、プレハブ住宅の原点となる「ミゼットハウス」を販売。その後、総合生活産業として事業の多角化に着手し、現在はその裾野を拡げています。2017年3月期の売上構成比では戸建住宅・賃貸住宅・マンション等住宅関連で約50%、事業施設・商業施設・その他で約40%となっており、大型物流施設の開発やロードサイド沿いの商業施設の建設にも力を入れています。

1967年に泉北ニュータウンが開発されて2017 年で50周年。大和ハウス工業は創業63年目の年です。同社は泉北ニュータウン開発当初から分譲住宅の販売に携わり、今日に至るまでまちづくりのパートナーとして共に歩んでいます。50周年を迎えた昨今、年月を重ねた団地や住宅が目立ってきましたが、再開発や建て替えなどの伸び代が残されている泉北ニュータウンですから、今後も大和ハウス工業による開発が期待されます。

 

スマ・エコ タウン晴美台は、これからの日本に必要なまち

スマ・エコ タウン晴美台の開発は、2011年10月に溯ります。堺市が進める「晴美台エコモデルタウン創出事業」に大和ハウス工業が選定され、スタートしました。提案内容は、廃校になった市立小学校の跡地1万6755㎡に、65戸全ての戸建て住宅をZEH(ネット・ゼロ・エネルギーハウス)にすることで、日本初のZET(ネット・ゼロ・エネルギー・タウン=街全体でつくり出されるエネルギーが消費されるエネルギーよりも多いまち)にするコンセプトでした。その発想のきっかけとなったのは2011年3月に発生した東日本大震災でした。

電線のない美しい街並み

スマ・エコ タウン晴美台の企画・提案を行った大和ハウス工業の脇濱さんは、未曾有の原発問題により、エネルギーを無駄に使うべきでないという世論の高まりを見て、「企業レベルで災害に備えること、エネルギーを無駄にしないことを考えたまちづくりが必要」と考えたそうです。エネルギーを自給自足できる家づくり・まちづくりこそが、これからの日本の住宅に必要な考え方だったのです。しかし、いかにして省エネの家・まちをつくるかは、決して簡単なことではありませんでした。

実際、家屋単位での省エネルギーの取り組みは限界があるため、まち全体で取り組むことによってできることの方が多かったと考えました。そして、まち全体に風を通す仕組みや、周辺環境(里山・緑)を活かしたまちづくりをつくり上げたのです。

スマ・エコ タウン晴美台の企画・提案を行った大和ハウス工業の大阪都市開発部 企画室 脇濱直樹さん 

ZET(ネット・ゼロ・エネルギー・タウン)の実現に向けて

エネルギーを使うよりも、つくるほうが大きいまちの開発はとても難しく、それは細かい点においてどれほど省エネにできるかがポイントでした。 

具体的な取り組みとして、晴美台の街の特性を利用することから始まりました。晴美台は南側と西側に里山が広がり、冷たい風が南東から西へ吹き抜けています。そのことを利用し、道路は広く曲線的にとりました。風が吹き込む一番南東の位置にはあえて家屋を建てず、地下式調整池(雨水による洪水防止の設備)とすることで、その地上部に芝生と大規模な太陽光パネルを設置しました。街の外周部擁壁の壁面緑化と、公共用地を借り上げての植裁も加わり、ヒートアイランド現象を和らげる街となったのです。

地下式調整池上部に太陽光パネル 芝生は住民の憩いの場にも 

また同時にまちの景観を美しく見せることも忘れてはいません。太陽光発電が主軸のスマ・エコ タウン晴美台には電柱も電線もありません。なおかつ高台にあることから、周辺の建物よりも空が大きく開けており、そこに緑がプラスされ、絵のように美しいまち並みです。初めて見学に訪れた際、高台へ続く階段を昇りながら、まるでテーマパークに行くようなワクワク感を覚え、たどり着いた先に見えたまち並の美しさに感銘を受けました。

さらに、家屋南側の屋根面積を広く取ることで、より多くの太陽光パネルを設置しました。エネルギーを蓄えるリチウムイオン蓄電池(6.2KWℎ)が各住戸に設置されています。その他、南東北地方の家屋で使用されている高断熱仕様となっており、窓の外側に「すだれ」のような遮熱スクリーン、南東からの風を効率よく家に取り込める窓、そしてエコキュートやエネファームの設置等、ありとあらゆる省エネ技術が詰め込められています。この家屋に施された設備だけでも、十分に省エネ大賞を受賞する価値があると感じました。

街灯や防犯カメラも太陽光エネルギーで

そして何より、スマ・エコ タウン晴美台における省エネ状況を一番知りたいのは住民自身です。パソコンやスマホからエネルギーの創出・使用量をウェブ上で見ることができ、いつでもネット・ゼロ・エネルギー・タウンを実感できるようになっています。

 

まちの共用部となる集会所の電気も、まちの中でつくっています。電気は、調整池上部等のまちで共有している大容量の太陽光パネル(17,132kW)と、大型リチウム電池により供給されています。

「3日に1度晴れれば、集会場やカーシェアリングの為の電気自動車1台分の電気がつくれます」

と力を込めて話してくださった脇濱さん。かなり効率的に仕組みがつくられていますね。

1年間のZET率(どの程度電気の自給自足が行えているか)を分析すると、2015年実績では年平均 127%、つまり、使うより作る電気の量が27%も多かったそうです。冬の日照時間ではどうしても100%を切りますが、初夏から真夏までは多くの電気を作ることができます。このことで年間を通じてみると、ネット・ゼロ・エネルギー・タウンを実現することができるのです。

管理事務所のカーシェアリング

レジリエンス(強靭化)なまちづくり、東日本大震災の教訓から

未曾有の大災害であった東日本大震災においては、飲料水よりもトイレが使えないことの方が困ったそうです。スマ・エコ タウン晴美台では、耐震強度の高い建物を造ることだけでなく、集会場には災害時に「トイレ」や「かまど」として使用できるベンチを設置、また建物下には1500Lを貯水できる雨水タンクも設置しています。これらを使用する機会がないことが望まれますが、万一の災害時に安心できる備えとして、今後の住宅開発に必要となる設備だと感じました。

防災トイレになるベンチ

まちのコミュニティを創ること、ハウスメーカーの試み

スマ・エコ タウン晴美台は、戸建住宅地でありながら管理組合法人を設置している点が斬新です。管理組合は、マンションにはあっても戸建住宅にはないのが一般的ですが、あえて管理組合を作った目的は、「まちに良好なコミュニティが存在すること」にあるそうです。まちを綺麗に保つ植栽や、子どもたちも一緒に楽しめるイベントの数々、緊急時の防災イベント等々も住民の間に良好なコミュニティが存在するからこそ、長期に存続していくことが可能となります。

それは各住戸に加えて、まちまるごとの資産価値の持続にもつながります。またそうすることで、日本初の、日本一のエコタウンであるという誇りを、何より住民みんなが感じることができます。そして、このスマ・エコ タウン晴美台は、環境面はもちろん、先進的なまちづくりの面、防災力の面、地球環境面、堺市の景観面など、数多くの賞を受賞しています。それもまた、住人と大和ハウス工業の双方の誇りと自信につながっています。

「ハウスメーカーとして、家をつくって売って終わりなのではなく、今後のまちのあり方、コミュニティの形成まで考えたい」という脇濱さんの言葉からもうかがえるように、今後のまちづくり・家づくりも、この「コミュニティの形成」が一つのキーワードになることでしょう。

これからの泉北ニュータウンについて

泉北ニュータウンに限らず、高齢社会となった日本にとって、より高齢者のライフスタイルに適した住環境の必要性は急務です。脇濱さんは次のように考えています。

「本当に高齢者のライフスタイルにあった家に住んでいるのか?その家は本来、子育て世代が住むような住まいではないか?だからといって、コミュニティを抜けて新しい場所に移り住むと、出歩かなくなり、喋らなくなってしまい認知症も進んでしまう。高齢者にとってそのライフスタイルにあった安心して生涯暮らせるような家を、そのコミュニティの中に作るべきです。つまり、コミュニティの中で住み替えることが大事なのです」

自分の好みやライフスタイルに合った住宅に住み、若い人も交えたコミュニティの中で生活してほしい。その中で助け合いながら永く楽しく暮らしてほしい。脇濱さんのこの想いが形になったまちこそが、スマ・エコ タウン晴美台なのです。管理組合を敢えて作り、うまく地域のコミュニティが生まれた事例は、今後の泉北ニュータウンに必要なまちのあり方のヒントとなるでしょう。

お知らせ
まちなかジーヴォ和泉市青葉台Ⅱ

泉北ニュータウンに隣接する和泉市青葉台において、「ダイワハウス」ブランド最新鋭戸建住宅「xevoΣ(ジーヴォシグマ)」のモデルハウスがご覧いただけます。「天井が高い家」のCMでおなじみですが、ゆとりある大空間・大開口の良さだけでなく、初期性能を持続するエネルギー吸収型耐力壁で繰り返しの地震に強い家として非常にクオリティの高い戸建て住宅です。昨今の大規模地震の脅威から守ってくれる家。泉北ニュータウンにも先進技術を用いた安心・安全な住宅がたくさん増えればいいですね。

◎市民ライタープロフィール

黒田真須美
フリーライター1年目。大阪府立大学経済学部卒業。銀行勤務を経て、現在は主婦業をしながら執筆中。実績は大学の卒業論文で優秀卒業論文賞を頂いたことくらいですが、今後、多くの人に読んで面白かったと言って頂けるライターになるべく頑張ります!お読み頂き誠にありがとうございました。