reportレポート

団地ライフのリアルって?
DIYの魅力を住民さんに聞きました。

注目を集める団地再生プロジェクト

団地の一戸をまるごと住民がリノベーションできるレクチャー付きの“DIY団地”や、向かい合う二戸の間取りを一つにして、90㎡超の広さを確保する“ニコイチ”など、斬新な取り組みで注目を集めている茶山台団地。

テレビや新聞などでも度々とりあげられており、目にした方もいらっしゃるのではないでしょうか。メディアを通して見るそれらのお部屋はどれもオシャレで現代的。さらに家賃もお手頃です。マンション住まいの筆者からすると、“この素敵さでこの家賃?!”とびっくりしてしまう一方、“実際の住み心地はどうなんだろう”と興味が湧いてきます。

そこで今回ご紹介するのは、“DIY団地”をきっかけに茶山台団地へと移住した甚田知世(じんたともよ)さんです。甚田さんに“DIY団地”の魅力と、団地ライフのリアルを語っていただきました。

インパクトドライバーを握る甚田さん

暮らしを育てる“DIY団地”

甚田さんは夫の単身赴任を機に4歳の娘さんと団地ライフを開始されました。子供時代にご自身が団地で育った経験から、子育てをするのにいい環境だと考えたそうです。

当初はご両親が住んでいるURの団地で行われていた“ワカモノ応援プロジェクト”(30歳までの若者が団地に居住し、団地の魅力を発信するプロジェクト)に参加。プロジェクトを卒業するタイミングで、知り合いからの情報で知った大阪府住宅供給公社の“DIY団地”に申し込み、2017年に茶山台団地へ移住されてきました。

「やってみたかったけど、どうやればいいかもわからないし、自分でどこまでできるかも分からなくて。でも茶山台団地ではDIYに必要な材料や道具も提供してもらえて、レクチャーもしてもらえるということだったので、これだ!と思いました」と、“団地DIY”に申込んだきっかけを教えてくれました。

実際に“DIY団地”に着手してみると、想定とは違うこともあったといいます。

「思っていたよりDIYが本格的で。DIYというより、大工さんになったような感じでした」

そこで甚田さんは友人らにも声をかけ、みんなが少しずつ協力して部屋をリノベーションする“リノベパーティ”を開催。

「そうしたら、私たち家族だけじゃなく、友達もこの部屋に愛着を持ってもらえるかなと思って。遊びに来てもらった時に、『ここ、私が作ってん』って言ってもらえたら嬉しいなぁと」

リノベパーティには仲間が集まり共同で作業

団地ならではの資材搬入も指導のもと安全に

また、想定外に大がかりなDIYのおかげで大体の家具は自分で作る方法が分かるようになったそう。

「マンツーマンのレクチャーが5回あって、建物や家具の構造から道具の使い方までひととおり教えてもらいました。フローリングも、板を電ノコで切るところから自分達で一枚一枚張ったんですよ。キッチンカウンターも作りました」

「これから子供の成長に合わせて、必要なものを作っていきたいと思っています。茶山台団地のDIYの募集では『育てる暮らし』というフレーズを使っていたんですが、本当にその通りなんですよ。自分で家を育てているという実感があります」と、頼もしい限り。

DIYした部屋を拝見すると、北欧風カフェのような甚田さんの様々なこだわりが詰まったオシャレなお部屋になっていました。

「まだ終わってない部分もあるんですよ。でも、住みながら少しずつ完成させていけたらなと。まさに、育てている途中なんです」

DIYした部屋の住み心地も、「快適です」とのこと

「五階に住んでいるんですが、夏は窓を開けると風が通って気持ちよかったです。ガスコンロなどの設備は新しくしましたし、困ったことはないですね。トイレの水の勢いが良すぎるくらいでしょうか。

顔の見えるコミュニティ- 茶山台の魅力

また、甚田さんは茶山台団地では自分の部屋だけでなく、コミュニティ自体を“自分で育てている”実感があるといいます。

「茶山台団地では若い世帯が中心になったコミュニティ活動が盛んです。茶山台としょかん(茶山台の集会所を住民のコミュニティスペースとして活用する活動)は注目を集めています。そういった取組に加えて、私も活動に参加している“つむプロ”(「泉北をつむぐ まちとわたしプロジェクト」の略)では、20代から70代の方が集まり、泉北の魅力を発掘し、発信しています。参加者には茶山台団地に住んでいらっしゃる方も多く、活気があります」

こうして移住してきた若い世帯と、従来から居住している住民との交流も盛んだといいます。

近所の家族も見学やお手伝いに

「茶山台としょかんには子供も大人も、おじいちゃんおばあちゃんもいらっしゃいますよ。娘の通う保育園は茶山台団地のすぐ隣にあるんですが、そこでもおじいちゃんおばぁちゃんとの交流会が開催されていて、娘は楽しみにしているんです」

象徴的なのは茶山台団地内にある特別養護老人ホーム、“グランドオーク百寿”に併設された「OAK cafe(オーク カフェ)」だといいます。

実際、今回のインタビューもこちらのOAK cafeで開催させていただいたのですが、とってもオシャレな店舗に老若男女、様々な方が集まり、会話が生まれていました。スタッフの方も慣れ親しんだ様子で利用客に声をかけられていて、“顔の見えるコミュニティ”がそこにはありました。

“持続可能な社会”に必要なもの

最後に甚田さんに、「これからも長くこのお部屋に住みたいと思いますか?」と伺ったところ、「もちろん!」というお返事をいただきました。それはお部屋に対する愛着だけでなく、コミュニティ自体に対する愛着があるといいます。

「部屋のことだけじゃなく、地域にも関わりながら暮らしていきたいと思います。例えば、周辺には自転車で回れる距離に素敵なお店がいっぱいあるのに、住民ですらあまり知らないことが多いんですよ。私はそういったことを発信していきたいと思っています」

また、子育てに関しても、「自然が豊かで、公園も沢山あって子供をのびのびと育ててあげられる。そして色んな年代、職業の方と関わり合える環境があることは、子供にいい影響を与えると思っています。机の上のお勉強も大事だけど、それだけじゃないから。」とおっしゃる甚田さん。筆者も実際に茶山台団地に足を運んでみて、親として共感するところが沢山ありました。

現在は団地の老朽化や高齢化が問題になっていますが、数十年後には都心のマンション群にも同じような問題が押し寄せることでしょう。古くなったものをただ新しくしていくだけでは、社会は長く続かない。トップダウンの政策だけでも、問題は解決しない。新旧の住民が協力しあい、自らの力を活用することでコミュニティは持続していける。茶山台団地住民の取り組みは、そうした“持続可能な社会”を実現するための着実な一歩なのでは、と感じます。

今後日本社会が取り組むべき問題の答えが、この茶山台団地の未来にあるような気がしました。

◎市民ライター・プロフィール

村岡美生
大阪大学法学部卒。数字には弱いが元銀行員。現在は堺市を中心に、親子で楽しむ英語リトミック教室やママ向け子育て英語講座を開催。我が子をレッスンの実験台にしていたら、気づけば子供はバイリンガルに成長していました。整理収納アドバイザー、ファイナンシャルプランナー、宅建などの資格を活かし、フリーライターとしても活動しています。