泉北ニュータウンにある、茶山台団地の再生を手掛けている大阪府住宅供給公社。お話を聞くため、住民のコミュニティづくりをサポートする上で生まれた「茶山台としょかん」を訪ねました。担当の田中陽三さんが話す再生の取り組みは、どれも斬新で団地暮らしの可能性が広がっています。
田中陽三さん
大阪府住宅供給公社 住宅整備部 団地再生課 主査
まちづくりに関わる仕事がしたくて大阪府住宅供給公社に入社。現在は、「DIYⓇSCHOOL at公社茶山台団地」や「茶山台としょかん」のプランニングなどの“響きあうダンチ・ライフ”をコンセプトにした、泉北ニュータウンの団地再生を担当。プライベートでも、「泉北をつむぐ まちとわたしプロジェクト」に参加し、公私にまたがって、まちづくりを楽しんでいる。
まちの開発から再生まで、まちびらきより泉北とともに歩んでいます
大阪府住宅供給公社(以下公社)は、大阪府下で団地を中心に住宅供給を行ってきました。泉北ニュータウンもその一つで、まちびらきから携わっています。当時は高度経済成長期の真っ只中。人口が都市に集中し住宅需要に応えるために作られたニュータウンは、少子高齢化や人口の減少が進む中、取り巻く環境が大きく変わりました。
そんな中で公社は、堺市と連携した「泉北ニュータウン先進的住戸リノベーション促進モデル事業」を皮切りに、2014年から茶山台団地の再生に取り組んでいます。
グッドデザイン賞を受賞したリノベーション賃貸「ニコイチ」
なかでも、建て替えをせずに、既存の団地の良さを活かすユニークな取り組みが「ニコイチ」です。隣り合う45㎡の2つの住戸を一つにつなぎ合わせ、90㎡の住戸にリノベーションしたプランです。既存の間取りから大きく形を変えたデザインが特徴で、3LDKや4LDKなど様々なプランから選べます。田中さんによると、「2015年度は3戸、2016年度は6戸が完成し、平均応募倍率が7倍(2016 年度)になるほど、人気物件になりました」とのこと。
「ニコイチ」に住んだら、子育てが楽しくなりそう。(上段:2015年度完成住戸 中・下段:2017年度完成イメージ)
茶山台団地も含め、これまでの泉北ニュータウンの公社団地は1戸50㎡以下のものが大半。退去者アンケートでは、「茶山台校区は好きだけど、子どもの就学で勉強部屋が必要になった」という声や、「2人目、3人目と子どもが増えたことで手狭になり、ほかのエリアに広い家を探して移った」という声が多数あったそうです。そのニーズに応える物件として、子育て世代や、出産・子育てを控えている新婚世代といった若年層ファミリーをターゲットにした「ニコイチ」が誕生しました。
室内はシンプルでオシャレ、便利なフリースペースも確保されていて機能的。家賃は7〜8万円代とリーズナブルです。
「入居者さまは、地域活動に活発な方や地域に魅力を感じている方が多いので嬉しいです」とも話す田中さん。そんな若い世代のアイデアやパワーが茶山台団地再生の強い味方になってくれそうです。
団地を使ったDIYⓇSCHOOLや、自分でDIYした部屋に住める賃貸プランも
「ニコイチ」に先駆けて実施した「DIYⓇSCHOOL at公社茶山台団地」も斬新な取り組みです。“大工道具は持っていないけど、習ってみたい”、“流行りのDIYを自宅に活用したい”といった思いのある初心者が大工や塗装工などプロ集団にDIYを学びながら団地の空き住戸をリノベーションした企画です。半年間で全21回の講義にのべ500人以上が参加しました。完成した5戸は、実際に賃貸住宅として入居者が募集されました。
さらに、「レクチャー付きDIY賃貸住宅」も登場しました!これは、好評だった「DIYⓇSCHOOL at公社茶山台団地」の経験をもとに、“DIYに興味があるけれど、やり方がわからない”という方をターゲットにした企画です。
「レクチャー付きDIY賃貸住宅」のモデルルーム。(公社スタッフがプロのインストラクターのレクチャーを受けてDIYを実施)
「通常、退去された住戸は、公社が全てメンテナンスをして次の入居者に引き渡すのですが、このプランでは、主に電気、水道、ガスなど設備のメンテナンスにとどめています。こうして、プロのインストラクターによるDIYの無料レクチャーを受けながら、自分の理想空間を自由に作り上げて住むことができるんです」と田中さん。(※無料レクチャーは5回まで)
当然、DIYによる改修作業期間にあたる契約後3か月間の家賃は無料。インストラクターの費用や資材費の一部も家賃に含まれています。こんなに充実しているのに家賃は約4万円といったお得なプランです。
また、茶山台団地では2018年春の入居開始に向けて新しい物件がデビューします。グッドデザイン賞2017を受賞した「ニコイチ」が5戸。従来の45㎡住戸にリノベーションを施した、単身者・カップル向けの住居「リノベ45」を5戸募集予定。
詳しくは「響きあうダンチ・ライフ」http://danchi-renovation.com/をチェックしてみてください。
「リノベ45」(2015年度完成住戸)。友達を呼びたくなるすてきなお部屋です。
「茶山台としょかん」の開設で、人が集まるきっかけづくり
茶山台団地では、リノベ-ションやDIYなどの取り組みの他にも使われていなかった集会所に住民同士が本を持ち寄り、「茶山台としょかん」という住民のつながりの場づくりを行っています。
「子育て世代の息抜きや、年配者の交流、子どもたちの学年を超えた触れ合いが生まれています。また、公社としても利用するみなさんからダイレクトに茶山台団地の暮らしの声が聞けるので、今後の事業に役立てたい」
と田中さん。ここに集う人たちも、広く活動を知ってもらいたいと積極的で、「としょだより」というニュースレターづくりに関わってくれる人も増えています。地元で開催されたイベントやワークショップのレポート、告知などを記事にしながら、茶山台団地を盛り上げる活動をしています。開設から2年が経ち、すっかり住民の憩いの場となっている「茶山台としょかん」の側では、毎週土曜日に「ちゃやマルシェ」が開催され、移動販売車から食料品を購入できます。新鮮な野菜が並ぶので小さな「道の駅」感覚で遊びに行っても楽しそうです。
「茶山台としょかん」の開館日は通常水・金・土。(開館時間は要確認 https://www.facebook.com/chayamatosho/)イベントなどの開催によってはほかの曜日に開館することも。
住居だけでなく、便利な共有空間も生み出していきたい
ここまで紹介した事例の他に、団地景観の改善も行っています。住棟の壁面に「CHAYAMADAI DANCHI」と記された、今までの団地にはないスタイリッシュなサインができました。これは車道からも見えるので、すっかり茶山台団地の“顔”になっています。。
最後に団地再生の今後について田中さんに聞きました。
「これまでは空いた住戸を住まいとしてリノベーションしてきましたが、レンタルスペースやシェアキッチン、子育てサロン、家族が帰省したときの宿泊部屋など、共有空間として活用することも考えています」とのこと。
積極的にまちづくりに参加する茶山台団地のみなさんなら、すてきなアイデアを実現してくれそうです。
今回、特に印象的だったのが「ニコイチ」についてのお話でした。入居者は泉北外から引っ越してきた若年層家族なので、団地を知らない若者が茶山台団地を見て、“新しい”と感じたのではないでしょうか。建て替えではなく、あえて既存の良さを残した「リノベーション」だったことが温故知新を生み出し、団地再生のカギになったのではないでしょか。
◎市民ライター・プロフィール
八木やす子
キャンディーメーカーで商品企画の職に就いた後、2005年より、フリーペーパーなどでライターとして活動。自身が育った新興住宅地も人口が減ってきているので、泉北ニュータウンの再生からヒントを得たい思っている。